業務効率化に欠かせないクラウドサービス「kintone(キントーン)」。顧客情報や案件の管理、申請書類の提出など自社に必要なアプリを作成できて、一元管理に役立つことから、ビジネスパーソンになじみの深いツールとして知られます。
そのkintoneを提供しているのが、サイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)です。サイボウズでは既存顧客に向けた情報発信と認知拡大施策の一環として2020年からYouTubeチャンネル「kintone Tech Channel(以下、キンテク)」を運用しており、JavaScriptやCSSなどを用いて独自開発が行えるkintoneカスタマイズのユーザー向けに、動画で技術情報を配信しています。
CINCではキンテクを2022年からコンサルティングし、ターゲットの定義の見直しやYouTube動画ならではの見せ方を意識したコンテンツの改善などをサポート。その結果、制作支援した動画の中から、視聴者のチャンネル登録に至る割合が通常の約3倍を記録する主力コンテンツが誕生しました。
では、どのような施策で動画の視聴回数やYouTubeチャンネルの登録者数を伸ばしたのでしょうか。YouTube運用のメリットや施策のポイントについて、サイボウズ株式会社 エンジニアリレーション部の安達萌恵さんに話を聞きました。コンサルティングを担当した株式会社CINC マーケティングDX事業本部 ソーシャルメディアマーケティング部の上杉魁も同席しています。
(取材・文:株式会社ケーズオフィス、撮影:矢島 宏樹)
目次
「楽しい」を起点に学べる動画を!キンテクがスタートした背景
YouTubeチャンネル「キンテク」の特徴を教えてください。
サイボウズ 安達萌恵さん(以下、安達)キンテクは、kintoneカスタマイズの技術情報を楽しく学べるYouTubeチャンネルです。kintoneをさらに活用していただくために役立つ情報を、動画コンテンツでわかりやすく伝えています。私は2021年からプロジェクトオーナーとしてキンテクに携わっています。
プログラミングには専門知識が必要で、社内にプログラマーがいなければカスタマイズが難しそうなイメージがあります。
安達実は、プログラマー以外の職種の方がkintoneカスタマイズを行うことも多く、なかにはkintoneをきっかけに一からプログラミングを学び始める人もいます。こうした担当者をサポートし、kintoneを安心して楽しく活用するための技術情報を提供したり、教育したりすることは私のミッションのひとつです。キンテクのほかに、kintoneカスタマイズの初心者向けコミュニティ「imoniCamp(以下、いもキャン)」の運営も担当しています。
キンテクでは、kintoneカスタマイズの担当者が、YouTube動画をきっかけに楽しくプログラミングを勉強できるようなチャンネルを目指しています。例えば歴史を勉強するとき、苦手意識のある人がいきなり難しい教科書を読むのはハードルが高いでしょう。しかし、楽しく学べるマンガであれば、歴史に興味を持つきっかけになるかもしれません。同様に、「楽しい」と思うきっかけがあればJavaScriptによるプログラミングも学びやすいと考え、キンテクは「楽しい」に重点を置いて運用しています。
たしかに、YouTubeなら気軽に視聴していただけそうです。
安達YouTubeにはすでに楽しいコンテンツがたくさんあって、多くの人が利用しています。動画はどこでも短時間で視聴できますし、家で過ごす時間が増えたコロナ禍以降のライフスタイルにも合っているので、これまでにリーチできなかったターゲット層との接点を持てる、有益な手段だと考えています。
手探りで始めたYouTubeチャンネル運用の課題
「楽しい」に重点を置いたキンテクのコンセプトは、チャンネル運用が始まった当初から決まっていたのでしょうか。
安達最初にコンセプトを決めて、メンバーに提示しました。チャンネルの方向性として、しっかりと勉強するコンテンツを作るのか、それとも興味を持ってもらうために楽しいコンテンツを作るのか。どちらか一方に絞らなければ、中途半端なチャンネルになってしまうと考えたからです。コンセプトが決まるまでは苦労しましたが、この共通認識があったからこそ、スムーズにキンテクの運用を進められたと思います。
その後はどのような目標を掲げてキンテクを運用してきましたか。
安達より多くのユーザーがレベルの高いkintoneカスタマイズを楽しめるように、ステップアップのためのチャンネルになることを目標にしてきました。例えば、サイボウズが主催するイベント「kintone hack / kintone show+case」では、kintoneカスタマイズの上級者が集まって、高度な技術やこれまでにないアイデアを競い合います。1人でも多くのユーザーに、こうした上級者のように一歩進んだカスタマイズを楽しんでいただきたいと考え、運用してきました。
チャンネルのターゲットはどの時点で設定したのでしょうか。
安達キンテクがスタートしてから1年間は、メンバーが手探りでプロジェクトを動かしており、ターゲットを明確に絞りきれていませんでした。チャンネルのターゲットをきちんと設定したのはCINCにコンサルティングを依頼した2022年からで、それまでは追うべき指標や数値の基準、視聴者層、動画の改善点など、何が正しいのかわからないまま運用が続いていたのです。それでも登録者数は少しずつ増えていたので、課題を改善すればさらに多くのkintoneユーザーに情報を届けられるようになるはずだと感じていました。
CINC上杉魁(以下、上杉)私がコンサルティングに入った時点では、ターゲットが曖昧で「kintoneカスタマイズをしている人」くらいの粒度でした。マーケティングでは、まず“誰に”伝えるか(Who)を明確にすることが大事です。kintoneカスタマイズをしている人たちの中には、カスタマイズを始めたばかりの初心者もいれば、もう何年もカスタマイズをしている上級者もいます。そのレベルの違いによって、YouTubeで求められるコンテンツも変わります。
どのようにコンサルティングを進めたのかを教えてください。
上杉まずはターゲットの定義から始め、kintoneカスタマイズのユーザーをレベル別にカテゴリーに分けて、それぞれの状態を整理していきました。キンテクではすでに「楽しいコンテンツを作る」というコンセプトが決まっていたので、改善へ向けた道筋の立案も比較的容易でした。
安達状況を整理した結果、上杉さんから「最終目標から見れば、チャンネルのターゲットはkintoneカスタマイズの上級者ですが、上級者を増やすためには多くの初心者を育てる必要があります」と話があり、現在のキンテクのターゲットは「kintoneカスタマイズをしている人」の中でも「ビギナー」と「ルーキー」だとわかりました。ビギナーは開発環境を利用できる状態の人たちで、ルーキーはサンプルコードを活用してプラグインを動かせる状態の人たちです。
上杉加えて、YouTube内の動向の調査を行いました。kintoneに関する動画は、どんな視聴傾向にあるのか。また、代理店などが運用する非公式チャンネルでは、kintoneカスタマイズについてどのような内容の動画が投稿されているのか。分析したデータに基づき、チャンネルのコンセプトやターゲットを踏まえて、現状のキンテクに不足しているコンテンツを提案しました。本来のターゲットである上級者向けの動画は、デベロッパーの方へのインタビューがすでに投稿されていたので、あらためて「まずはビギナーやルーキー向けのコンテンツを作りましょう」となったのです。
コンテンツ制作に関しては、コンサルティングを受けてどのような改善を行ったのでしょうか。
安達YouTube動画ならではの見せ方を指導していただき、意識的に取り入れました。例えば、「【完全保存版】簡単3stepで始めるkintoneカスタマイズ」が好例です。初心者向けのコンテンツでは話している人の顔が見えるようにしたり、サムネイルに人の写真を使ったりと、親近感がわくような工夫をしたほか、タイトルに「3step」と数字を入れて少ない工程でできることが伝わりやすいようにしました。
上杉YouTubeのチャンネル運用では、ストックされた動画によっても視聴者数が増えていくので、すでに公開済みの動画であってもサムネイルの改善は早ければ早いほど有効と言えます。そのため、すでに公開されている動画のサムネイルの改善も行いました。キンテクの中でサムネイルを大きく改善した例として挙げられるのは、kintoneカスタマイズを始めたばかりの人を対象にした「よいどん!」シリーズです。以前のサムネイルは文字が小さく、動画の内容がひと目でわからない状態でしたが、動画の内容やナンバリングがわかりやすくなるよう改善しました。
安達動画での言葉遣いや情報の伝え方に関しても、上杉さんから多くのフィードバックをいただいています。あるとき上杉さんに動画の構成案をお渡ししたら「この言葉は、どういう意味ですか?」と専門用語に指摘が入りました。サイボウズの社内では普段から会話でプログラミング用語を使っているため、動画でも無意識に専門用語を使ってしまっていたのです。
上杉難しい言葉を使って難しい話をしても、初心者は楽しく学べません。そこで、動画内ではビギナーやルーキーにも理解できるように、専門用語を言い換えていただいたほか、誰にでもわかるような例え話を使って伝える工夫もしてもらいました。実際に動画でも使った表現として「料理に例えたら開発環境はキッチン、VS Codeは調理器具」が挙げられます。
また、安達さんが運営されている初心者コミュニティ「いもキャン」にはビギナーやルーキーに近い方々が参加しているので、コミュニティ内で挙がった疑問や意見などを企画の方向性に反映できました。実際に、安達さんからコミュニティのメンバーに「このような動画を見たいと思いますか?」とヒアリングしてもらい、企画の参考にしたこともあります。
キンテクの主力コンテンツは視聴者のチャンネル登録率が通常の約3倍に
施策による定量的な成果を教えてください。
安達コンサルティングを受ける前の2021年にアップしていた動画に比べて視聴回数が伸び、チャンネル登録につながる主力コンテンツができました。それが「【保存版】よくあるkintoneカスタマイズ事例10選」です。
上杉この動画のチャンネル登録率(動画視聴者のうち、チャンネル登録に至った割合)は3.1%です。YouTubeの動画を視聴した人がチャンネル登録に至る割合は一般的には1~2%なので、2~3倍のチャンネル登録率と言えます。動画の視聴回数は公開から半年経った2023年2月現在も伸び続けていて、キンテクでも特に優秀なコンテンツです。
上杉さんは、なぜこの動画で成果が出たと考えますか?
上杉一つは、誰に(Who)何を(What)届けるか明確に定義したことです。この動画では、kintoneカスタマイズの開発環境は整えたけれど、次に何をすれば良いかわからない段階のビギナーやルーキーへ向けて、役立つアイデアを提供しています。その上で、YouTubeで再生されやすいサムネイルやタイトル(●選)を設定したからこそ、視聴回数が伸び、チャンネル登録者数の増加にもつながったと考えています。
安達さんは、コンサルティングを受けていかがでしたか。
安達今までの自分たちが、いかに憶測で動いていたかを実感しました。コンサルティングでは単なる現状の分析にとどまらず、To Be(理想の状態)を整理して、キンテクのあるべき姿をしっかりと示していただけたのが心強かったです。2022年にはチャンネルの主力コンテンツが生まれて、登録者数も増えました。やはり、動画マーケティングのプロは違います。
また、キンテクが成長してチャンネルの認知が拡大してから、kintoneに関わる社内外のさまざまな人たちにメリットがもたらされているのを感じます。例えば、kintoneの勉強会にキンテクの動画を活用しているチームもあります。営業担当者からは、お客さまにキンテクを紹介すると良い反応をいただけると聞きました。
キンテクでは今後どんなことにチャレンジしていきたいですか。
安達YouTubeの動画そのものにもっとコメントをいただけるようになって、ユーザーの皆さまの声を反映させた新しいコンテンツを作りたいです。また、2022年はビギナーやルーキー向けの動画を作ってきたので、今後はいよいよ上級者へ向けてコンテンツを届けるYouTubeチャンネルを目指したいと考えています。キンテクの「楽しい」をきっかけに、お客さまがサイボウズに興味を持ったり、kintoneをご契約いただいたりして、ゆくゆくは経営にも影響を与えられる存在になれたら嬉しいです。
上杉さんは、コンサルタントとしてキンテクのチャレンジをどのようにフォローしていきますか。
上杉すでにカスタマイズをしている人も、これからカスタマイズを始める人も、kintoneをカスタマイズする全ての人が見るYouTubeチャンネルを実現したいと考えています。ユーザーから「このチャンネルを見ればkintoneカスタマイズのことがよくわかるし、面白い!」と楽しんでいただけるコンテンツを、コンサルタントとして一緒に作っていきたいです。
安達さん、本日はありがとうございました。
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サイボウズ株式会社
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「チームワークあふれる社会を創る」を理念に、チームの情報共有やコミュニケーションを促進する「kintone」「サイボウズ Office」などのグループウェアの開発・販売・運用を行う。そのほか、人事制度や働き方改革に関するメソッドを開発・販売・提供するメソッド事業も展開している。
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Webライティング専門カンパニー。社員ライターによる自社一貫の記事作成が特徴。コラム記事から取材記事まで、幅広いコンテンツ制作に対応。